ピーターの法則をわかりやすく解説。階層社会にあふれる無能?回避策は

ピーターの法則とは、「階層社会では、有能さを発揮できていた地位から無能ぶりを露呈することになる地位へと昇進を重ねて、おのおのの無能レベルに到達する」、ことをいいます。

そしてこの状況は、能力主義のあらゆる階級社会の中で、どのような人にも起こりうるとされています。

組織を運営する側は当然、そういった状況を回避したいでしょうし、個人も自分自身が無能であることは受け入れ難いものでしょう。辛辣なこの法則について、回避策も合わせてわかりやすく紹介します。

ピーターの法則とは

ピーターの法則(Peter Principle)は階層社会の組織構成員の労働に関する法則です。

ピーターの法則では、「能力主義のあらゆる階層社会では、すべての人は有能さを発揮できていた地位から無能ぶりを露呈することになる地位へと昇進を重ねて、無能レベルに到達する。遅かれ早かれいかなる組織も、職責を果たせない無能な集団になってしまう」と説明されています。

なおピーターの法則で言われる「無能」とは、階層社会において「期待されていることが何もできなくなった状態」を意味しています。

また、昇進後の地位がより難しい仕事であるという意味でもありません。要求される技術・期待されるスキルを持ち合わせない職務を行う必要があるポジションで初めて「無能化」するのです。

  • 有能と評価されていたスキルが役に立たずに無能となる
  • 無能になる地位に達していない集団から、抜きん出た際に昇進となり、無能化するまでそれが続く

ピーターの法則の条件と背景

なぜピーターの法則にならう組織が形成されてしまうのでしょうか。以下では、ピーターの法則が生じる条件とその背景として代表的な5つを紹介します。

1. 昇進により無能化した管理職による人事評価

ピーターの法則が組織で作用する際、昇進後の管理職が適切に職務を遂行できず、特に人事評価において次のような問題を引き起こします:

  • 不適切な基準による評価:無能化した管理職は、部下の業務内容を正しく理解できないため、成果や能力ではなく、表面的な印象や個人的な好みで評価を行う傾向が強まる。
    • 例:業績を直接上げた部下よりも、目立つ発言や上司に迎合的な態度をとる部下を高く評価する。
  • 部下のモチベーション低下:不公平な評価を受けた部下が不満を抱き、仕事への意欲を失う。
  • 適材適所が実現されない:本来、スキルや経験を活かせる人材が適切に昇進・配置されず、組織の効率を損なう。

2. 役職に求める要件定義が明確ではない

役職の要件が曖昧な場合、ピーターの法則が起きやすくなります。この背景には次の要因があります:

  • 具体的なスキルや能力の不明確さ:例えば、「管理職にはリーダーシップが必要」という抽象的な要件だけでは、そのポジションで何が求められるのかが分かりにくい。
    • 例:技術職として優秀な人材を、マネジメント能力が必要な役職に昇進させた結果、管理能力の不足が露呈するケースが典型的です。
  • 役割と責任の範囲が曖昧:昇進後の役職で何を達成すべきかが明示されていないと、昇進者自身も困惑し、職務を適切に遂行できない。
  • 採用時のミスマッチ:ポジションに求められる要件が不明確なまま昇進が進むと、適性のない人材が上位ポジションを占めるリスクが高まる。

3. 昇進・昇格制度の欠陥

ピーターの法則が強調する背景には、組織の昇進・昇格制度そのものの問題があります:

  • 年功序列の慣行:日本の組織では特に見られる年功序列型の昇進制度では、能力や適性を無視して、勤続年数や年齢だけで役職が与えられるケースが多い。
    • 例:管理職としてのリーダーシップや戦略的思考が求められるポジションに、単に勤続年数が長い社員が昇格する。
  • 成果主義の形骸化:成果に基づいた昇進制度があっても、その成果が短期的な数字に偏りすぎると、本来の適性が無視される。
  • 昇進の強制性:一定のキャリアパスが用意されている場合、昇進を拒否することが難しく、不適切な人材が管理職になりやすい。

4. 不十分な育成制度・期間

ピーターの法則が生じるもう一つの大きな背景は、昇進後の育成制度や準備期間が不十分であることです:

  • 昇進前のスキル習得の不足:昇進に先立つ研修やトレーニングが実施されていない場合、昇進後に求められる能力を持たないまま新しい役職に就くことになる。
    • 例:現場の技術職から管理職に昇進する際、マネジメントスキルや人間関係調整能力が必要になるが、それが事前に身につけられていない。
  • 昇進後のサポート不足:新しい役職に就いた後も、十分な指導やフォローアップが行われない場合、昇進者が孤立し、成果を上げられなくなる。
  • 学習と成長の時間不足:日々の業務に忙殺され、自己学習や能力開発に割く時間が与えられない。
  • 失敗から学ぶ機会の欠如:昇進者が間違いを犯した際、適切なフィードバックや学習の場が設けられず、問題が繰り返される。

ピーターの法則が生じる条件や背景は、組織運営の根本的な問題に起因することが多いです。その結果として、組織にどのような影響があるのか、つぎで解説していきます。

ピーターの法則が組織に与える影響

ピーターの法則は組織に対して以下のような影響を及ぼします。以下の4つの観点から具体的に説明します。

1. 生産性の低下

ピーターの法則に従うと、組織の各階層において、職務を適切に遂行できない人材が徐々に増加する可能性があります。具体的には以下のような状況が生まれます:

  • 業務遂行能力の低下:昇進後の役職で必要なスキルが欠如しているため、意思決定やプロジェクト管理が遅れる。
  • チーム全体への悪影響:上司の指示が不明確であったり、誤った判断を下したりするため、部下のモチベーションが低下し、業務効率が落ちる。
  • イノベーションの停滞:重要なポジションが「無能レベル」にある人材で占められることで、新しいアイデアや改善案が採用されにくくなる。

2. 人事評価制度が機能せずに形骸化

ピーターの法則の影響により、以下のように人事評価が形骸化するリスクがあります:

  • 昇進がスキルではなく「昇進の実績」や「年功」に依存:業績や適性を重視しない昇進が繰り返されることで、公平性が失われる。
  • 組織内の不信感:部下が「なぜこの人がこのポジションにいるのか」と疑問を抱き、評価制度への信頼が低下する。
  • 適材適所の欠如:人材が能力に見合ったポジションに配置されなくなり、組織全体の効率が悪化する。

3. 業務効率性などに影響

ピーターの法則による無能レベルの人材増加は、業務全体の効率性に直接影響を与えます:

  • 意思決定の遅れ:リーダーが必要な判断を下すのに時間がかかり、プロジェクトが停滞する。
  • 過剰な管理体制の発生:能力不足を補うため、余計なミーティングや報告が増え、作業効率がさらに低下する。
  • 誤ったリソース配分:リーダーが業務の優先順位を誤り、不適切なリソース配分が行われることがある。

4. 人材流出の可能性

ピーターの法則により、無能な上司が増えることは、優秀な人材が組織を離れる原因になります:

  • 部下の不満増加:上司の無能さにより部下がストレスを感じたり、自身のキャリア成長が阻害されたりする。
  • 公正な評価の欠如:適切に評価されず昇進の機会が与えられないと感じた人材が、より良いキャリアパスを求めて転職する。
  • 企業イメージの低下:組織全体で無能なマネジメントが目立つと、業界内で評判が悪化し、採用面でも優秀な人材を確保しづらくなる。

ピーターの法則に例外はあるか

ピーターの法則について解説をしてきましたが、全ての組織がピーターの法則に沿うとは限らないのでは?と疑問も出てくるでしょう。ですがピーターは、その法則に例外は無いと結論づけています。ピーターの法則から逃れることは不可能としながらも、「擬似昇進」「見かけだけの例外はある」といいます。

見かけだけの例外①:強制上座送り

生産性の低いポストから、一階層上位の別の生産性の低いポストに異動することがこれにあたります。その効果として;

  • はなから無能のため周囲は人事の妥当性を判断できない(ジャッジした人が責められることはない)
  • 無能な人が出世できるのだから自分にもできると部下の勤労意欲を保つことができる
  • 解雇を回避し、自分の階層社会を維持できる

見かけだけの例外②:水平異動

階層を昇ることもなく給料も変わらず、「新規の肩書き」を与えられて仕事環境を移されることがこれにあたります。

また、管理職自身以外の部下が全員別の部署に異動し、管理の対象がいない宙ぶらりんの状態をピーターは「管理職の空中浮遊」とも表現しています。

見かけだけの例外③:ピーターの本末転倒

「ピーターの職業的機械人間」とも言われ、「目的よりも手段を評価」される階層組織の中で生じる状況です。具体的には、無能な上司によって、アウトプット(結果や成果)ではなく、インプット(組織のルールに従えるか、調和を乱さないなど)が評価の尺度になっている場合のことを指しています。

そのように評価された人が昇進の対象になるわけですが、組織のルールや決断に従うことで評価を得てきているため、昇進によって「自分で決断をしなければならない」局面においては無能を発揮してしまうことになります。

見かけだけの例外④:階層的厄介払い

典型的な階層社会にあっては、有能すぎるものは無能なものよりも不快として扱われ、また、スーパー無能(アウトプットもインプットも期待値に到達しない)場合には解雇されてしまうということです。

階層社会を維持することを第一主義としている組織では、有能すぎることは内規を乱したり組織を揺るがす脅威とも取られうるのです。有能さを発揮できないポジションへの昇進や、こじつけでの解雇などがそれにあたります。

スーパー有能もスーパー無能も、すべからくピーターの法則の例外ではないということです。

見かけだけの例外⑤:親の七光り人事

実力に関係なく一気に昇進するなど、昔であればオーナー社長が子息に対してそのような人員配置をしていたこともあるでしょう。無能化しないということではなく、与えられたポジションで実績を収めた場合も、無能が発揮される地位まで昇進するという点で依然としてピーターの法則に合致するわけです。

無能化防止のための4つのアプローチ

ピーターは、有能な人材が無能化しないための防止策として「ピーターの予防薬」「ピーターの痛み止め」「ピーターの気休め薬」「ピーターの処方薬」という4つのアプローチを説いています。以下、それぞれを具体的に説明します。

1. ピーターの予防薬(無能化を防ぐための事前対策)

  • マイナス思考:昇進の打診があったとしても、「昇進によって現在の上司の上司に仕えて仕事ができるか?部下は自分のことをどう思うか?プライベートの時間が楽しめなくなるのではないか?」などマイナス思考の自問をすることで、昇進の打診があった際に適切に断ることを助けるでしょう。

2. ピーターの痛み止め(無能化が始まった場合の一時的対策)

無能化が進行し始めた際に、影響を最小限に抑えるための措置です。ピーターの法則における「見かけだけの例外」として「水平異動」を実施するというものです。

  • サポート体制の強化: 無能化した管理職を孤立させず、部下や他の管理職からの支援を受けられる仕組みを構築する。
    • 例:意思決定が苦手な管理職に、データ分析の専門スタッフを補助として付ける。
  • 役職の再調整(リデザイン): 管理職の役割を再定義し、苦手分野を減らし得意分野に集中できるようにする。
    • 例:管理業務が苦手な場合、現場指導や技術分野に専念させる。
  • 継続的なコーチングやメンター制度: 定期的にコーチや上級マネージャーがフィードバックを行い、弱点の克服を支援する。
    • 例:部下とのコミュニケーションが苦手な管理職に、効果的な話し方のトレーニングを行う。

3. ピーターの気休め薬(無能化の影響を軽減する組織的対策)

無能化した状態が続いても、組織全体への悪影響を抑えるための工夫です。

  • 権限の分散: 無能な管理職が重大な意思決定を一人で行うことを避けるため、チームや他の役職に権限を分散させる。
    • 例:重要なプロジェクトは複数の責任者で共有し、チェックアンドバランスを強化する。
  • チーム全体の自主性向上: 管理職の指導能力に頼らず、部下が自律的に動ける仕組みを作る。
    • 例:チームの各メンバーに専門分野の責任を持たせ、日々の意思決定を任せる。
  • ローテーションの実施: 管理職を一定期間ごとに異なる部署に配置転換し、新たなスキルを身につけさせる。
    • 例:営業畑の管理職を短期間だけ人事部門に配置してスキルを多角的に磨く。

4. ピーターの処方薬(根本的解決を目指す施策)

無能化した状態から回復させるための長期的・抜本的な解決策です。

  • 再教育プログラムの導入: 無能化しているとみなされた管理職に、マネジメントスキルや業務知識を再学習させる場を提供する。
    • 例:リーダーシップ研修や業務改善ワークショップを実施する。
  • 役職の再定義と再配置: 管理職を役割に適したポジションに異動させることで、スキルを最大限活かせる環境を整える。
    • 例:マネジメントが苦手な管理職を専門職のポジションに戻し、専門知識を活用させる。
  • 昇進後のキャリアパス再構築: 昇進を最終目的地とせず、能力や適性に応じて次のキャリアパスを提示する。
    • 例:「管理職」として昇進させるのではなく、「専門職」や「プロジェクトマネージャー」といった複数の選択肢を設ける。

これらの4つの防止策は、ピーターの法則の進行を防ぐだけでなく、既に影響が出ている場合でも組織を健全に保つために試す価値はあるでしょう。

ピーターの創造的無能

組織としての対策のほか、個人が主体的に無能化を避ける代表的な方法としてピーターは「創造的無能」という策を勧めています。

創造的無能化の目的

  • そもそも昇進の話を持ちかけられないようにすること。
  • 不必要な昇進を避け、自分が得意な分野や役割に専念し、能力を最大限に発揮すること。

創造的無能の実践方法

  • 自ら進んで「無能」に見せる振る舞いや態度を取ることで、昇進対象から外れる。
  • 不適切なポジションへの昇進で無能化しないよう、意識的に行動する。
  • 例:
    • 変人、一匹狼として振る舞う。
    • マネジメントではなく、現場作業や専門職としてのスキルを重視する態度を見せる。
    • 難解な書類作成や人間関係の調整をわざと苦手なように見せる。

さて、「昇進を繰り返すことで、最終的に能力が足りないポジションに到達する」とされるピーターの法則において、「昇進プロセスに乗らなければ無能化を防ぐことができる」というアプローチとして、ピーターの「創造的無能」を紹介しました。昇進そのものを「意図的に止める」ことで、無能化を未然に防ぎ、仕事やプライベートにおいても健康・健全な状態を保てるというわけです。

ピーターの法則に関するまとめ

ピーターの法則とは階層社会における昇進プロセスで人は無能化することを説明したものです。

  • 有能と評価されていたスキルが役に立たずに無能となる
  • 無能になる地位に達していない集団から、抜きん出た際に昇進となり、無能化するまでそれが続く

要求されるスキルや役割が、対象となる個々人に合致しているのかをしっかりと見定める必要があるでしょう。無能化による、組織・個人は決して健全とはいえないものです。なお、無能化を回避する個人的な策、自己防衛として「創造的無能化」も解説をしました。

本記事をかくにあたり、下記の文献を参考にしています。あっけらかんとした書きっぷりが爽快でした。機会があればお手に取ってみてください。